グローバル化に伴い、英語教育の重要性がますます高まっています。海外からの旅行客や在日外国人、あるいは日本から海外へ活躍の場を求める人が今後も増えることが予想されます。
こうしたなか、「子どもをバイリンガルに育てたい」と思うママさんやパパさんがいても不思議ではありませんよね。
実際は、日本国内にいながらバイリンガル教育を進めるのは大変です。外国人と会う機会が増えているとはいえ、まだまだ単一民族の国家である日本。日本語を話せれば、まったくといっていいほど不便さを感じないのも事実でしょう。
ただ、今は困らなくても将来はわかりません。グローバル化やIT化が加速し、予測困難な時代にあって「できることなら〇〇は身につけておいた方がいい」の〇〇に日本語以外の言語が加わる可能性は大いにあります。
そこで今回は、子どもをバイリンガルに育てたいと思うママさんやパパさんに向けて、赤ちゃん時代からどのような視点や方法で育てていったらよいのか紹介します。
バイリンガルとは?
本章では「バイリンガルはどのような状態を指すのか」について説明します。
バイリンガルとは、英語でbilingualと表記され「2言語で自在にやり取りできるスキル」を身につけた人を指します。
バイリンガルといえば、下記のように3つの段階に分けられます。
- 「聞く・話す」
- 「読む・書く」
- 「多文化」
「聞く・話す」段階のうち、とくに「聞く」が先になります。まずは赤ちゃん時代から、大好きなママの声、家族の語りかけなどから始まり、友達との会話や交流が加わる幼児期から7歳前後まで、聞く力が高まっていくでしょう。
「読む・書く」段階は、小学校入学後に始まる「学習」と関係しています。つまり知的好奇心を満たしながら知力を高めていく段階です。直接経験した内容だけでなく、非日常的なストーリーを読んで理解する力や自分の思いを伝える力が伸びていく時期といえるでしょう。
「多文化」の段階とは、言語的な要素(聞く・話す・読む・書く)をクリアしつつ、その言語に付随する文化を身につけた状態を指します。単に文化を受け入れるだけでなく、何気ない生活のなかで「日本人」になったり「日本人以外の人」になったりして、自然に対応できる状態だといえるでしょう。
子どもをバイリンガルに育てるには、赤ちゃんからの各段階をクリアしながら少しずつ育ていく必要があります。
それでは、次章で赤ちゃんのころからバイリンガル教育を始める場合のコツを解説します。
バイリンガルに育てるには?その秘訣
バイリンガルに育てる場合、リスニング力に優れた赤ちゃんのころから小学校入学前後にかけて環境づくりをしっかりおこなう必要があります。
今回紹介する秘訣は、赤ちゃん時代からの環境づくりや親の姿勢です。下記の4点について順に解説します。
- 家庭と外の環境を整える
- アイデンティティを育てる
- 自信をもたせる
- 日本語と英語を区別する
それでは1つ目の「環境づくり」から説明します。
家庭と外の環境を整える
家庭でバイリンガル教育を進める場合、言語環境をベストな状態に保たねばなりません。赤ちゃんからはおもにママの語りかけが中心になりますが、幼児期から小学校低学年ごろにかけては下記の2つの方法が考えられます。
- 家庭では日本語だけ/外は英語だけ
- 家庭でママは日本語/パパは英語
バイリンガル教育を進める場合、一つ知っておきたいのは「母国語の日本語と英語の両方が中途半端になってしまう」可能性がある点です。この状態をセミリンガルといいます。
「中途半端」とは、簡単な日常会話ができても抽象的な話の内容を理解したり表現したりできない状態を指します。
会話にあるように、読み書きといった学習言語を習得させる必要があります。学習言語の習得が中途半端であれば、より難しい内容を理解しにくくなり思考力や表現力を伸ばすのが難しくなるでしょう。
そのため、まずは家庭でママが日本語をしっかり教え、外の環境(幼稚園や小学校)では、英語のみの環境づくりを整えなければなりません。
ほかにバイリンガル教育を成功させた例として、ママは日本語、パパが英語のみで子どもにやり取りしたご家庭もあります。ママが日本語と英語の両方を教えるより、子どもは「ママとは日本語、パパとは英語」と区別しやすいため、バイリンガルになりやすいといえます。
いずれにしても、母国語である日本語の教育をおろそかにしてはいけません。日本語があやふやな状態では英語力の向上にも負の影響を与えます。家庭と外の言語環境を区別する姿勢が「環境を整える」ことだと理解しておきましょう。
アイデンティティを育てる
バイリンガルに育てたい場合、親の姿勢として重視したいのが「アイデンティティを育てる」ことです。アイデンティティとは端的にいえば「自分らしさ」であり「自分はいったい何者で、どのような存在なのか」わかっている状態を指します。
アイデンティティに関しては、英語圏で暮らす場合、とくに課題に挙げられます。「英語圏で暮らせば自然とバイリンガルになる」といった考えで子育てをすると、日本語力が貧弱になる可能性があるのです。
つまり、日本語や日本文化、歴史などを学びにくくなり、理解を深められない場合、子どもが「ぼくは日本人なのに、日本人ではないのか」といったアイデンティティ・クライシス(危機)に陥ってしまうのです。
これを回避しつつ…バイリンガルに育てたい場合「日本人であること」を納得できる情報を子どもに伝える必要があります。「わざわざ教えることもないのでは?」と思うかもしれませんね。
しかし、日本人が日本語のみで教育を受ける場合と異なり、バイリンガル子育ての場合は、自分のルーツをしっかりインプットさせなければ、アイデンティティ・クライシスから免れないと考えます。
赤ちゃんのころからバイリンガル教育を進めるにしても、子どものアイデンティティの確立については常に意識し、自分を大切に思う気持ちを育てるようにしましょう。
自信をもたせる
前述のアイデンティティともつながりますが、子どもに自信をつけさせるのは大切です。自信をもてない人は、他者に寛容になれず攻撃しがちになります。
つまり、子どもに多様性や多文化共生といった価値観を大切にしてほしいと思えば、自尊心や自信を育む必要があるでしょう。
こうした営みが、子どもの自尊心を育みます。また、子どもの好きなことや興味のあるものを尊重し、何かをやり遂げた際には努力を認める親の姿勢は大切にしたいですね。
このような家庭環境であれば、子どもは少しずつ自信をもち、困難なときにもなんとか自分で「がんばってみよう」と挑戦し始めます。そして他者を認め、思いやりをもった行動につながっていくでしょう。
日本語と英語を区別する
1つ目の「家庭と外の環境を整える」の箇所でも解説しましたが、バイリンガル教育をおこなう際に、日本語と英語をむやみにミックスさせるのはおすすめできません。
日本語と英語を使う方法も場所も完全に分けるのが、バイリンガル子育てを成功させるコツです。
バイリンガルは、日本語と英語を使い分けています。使い分けるとは、脳のなかで日本語と英語の2種類の思考をもっていることを指します。つまり、英語を聞いたときは、いちいち日本語に訳すことなく「英語を英語で理解する」思考法です。
このようなバイリンガルに育てるには、インプット用の容器を2つ用意しなければなりません。日本語の容器、英語の容器のそれぞれが充分に満たされるとアウトプットされると考えてください。
バイリンガル教育を進めていると、ときに「この子は、なかなか言葉を出さないけれど本当に大丈夫なのか」と不安になることもあるでしょう。
ただ、先ほどの「インプット用の容器」の話に戻せば、言葉がなかなか表出されないのは当然の結果といえます。なぜなら、バイリンガルの場合、通常よりも2倍のインプット量が必要なのですから…。
日本語と英語のそれぞれの容器が両方ともいっぱいになるまでには、相当の時間がかかるのです。
言葉が満たされれば自然と言葉がアウトプットされます。日本語の発語が遅いと感じる場合は、言葉かけをたくさんしてあげましょう。
子どもの脳のなかでは、話す相手の言語に応じて自動的に「容器」を使い分けるといわれます。つまり、バイリンガルに育てたい場合は「そのときにその言語”のみ”を使う必要があるのです。
大切なのは日本語と英語をごちゃまぜにしないこと。たとえば、英語を教える際に理解しやすくするために、次のような方法で教える場合があるでしょう。
「これはね、アリよね、英語でantというのよ、アリね、ant」のようにミックスして教えます。しかし、子どもが理解しやすいとしても、やはり「日本語」で認識してしまうようです。
上記のような教え方ではなく、バイリンガル子育てでは、「英語のみ」の情報をインプットしましょう。英語だけの環境にどっぷりつかることで、「英語の容器」が満たされ、子どもの脳に英語の思考回路が生まれます。
英語圏で生活していれば「家庭で日本語、外の環境で英語」が可能であるため、日本語と英語それぞれの容器に充分な量がストックされていきます。明確に区別されることで、両者が混ざらず、思考回路もその時々で見事に切り替えられるでしょう。
くり返しますが、バイリンガルに育てたい場合は、日本語と英語の容器をそれぞれ満たすために、両者を区別してインプットするのを念頭においてくださいね。
赤ちゃんから幼児期のバイリンガル教育
バイリンガルに育てる場合も、通常の英語教育と同様に、まずは「聞く」ことでインプット量を増やしていくのが重要です。
ただ、今回お伝えしているように、日本語の素地をしっかり養う必要があります。国内でおこなう通常の英語教育であれば、英語のインプット量は多いとはいえ日本語のそれよりも少ないため、貧弱な日本語になる確率は低いといえます。国内でおこなう通常の英語教育であれば、英語のインプット量は多いとはいえ、日本語のそれよりも少ないため、貧弱な日本語になる確率は低いといえます。
(かといって、日本語をおろそかにしていいわけではありません)
バイリンガル子育ては、「日本の容器」と「英語の容器」の両方を満たす必要がありますから、覚悟を決めて「倍以上のインプット量を確保」したいところ…。このため、。赤ちゃん時代からスタートした方が、大量のインプットを確保しやすいといえます。
しかも赤ちゃんのころは、生後1年未満で英語特有の音RとLの聞き分けが可能だといわれます。この時期に、家庭では日本語、特別な環境では英語のみを聞かせるように努めれば、リスニング力はぐーんと向上するでしょう。
子どもの心身ともに健やかな成長をめざすには、長期的な視野に立ち、母国語の基盤をつくる視点を念頭においてくださいね。
では、0歳児からのバイリンガル子育てのポイントを次から解説します。
「聞く・話す」を育てる(0~2歳)
子どもの言葉を育てる際に、大切な役割を担うのはママの語りかけでしょう。ママが優しく「〇〇ちゃん、今日もごきげんかしら?」と話しかけると、赤ちゃんはきっとママの顔をじっとみるでしょうね。
何かしら答えようと「ア、ウ、アゥゥ」などの声をあげます。お腹のなかにいるころから、親しみのあるママの声が大好きなのですね。
日本人の両親である場合、「ママが日本語、パパが英語(またはその逆)」のように徹底的に区別するのは難しいと思われます。
たとえば英語のみで保育をしてくれるナーサリースクールがあれば、そこでは英語オンリーにできる可能性はあります。ただ、なかなかそうしたスクールを見つけにくいのが現状でしょう。
家庭でバイリンガル子育てをする場合、とくに1人1言語が難しい場合は、シチュエーションごとに分けるのが効果的です。
たとえば「〇〇のときは英語だけを使う」とするのです。その〇〇のときは、たとえば次のようなシチュエーションが考えられるでしょう。
- ご飯を食べているとき
- お風呂に入っているとき
- 絵本の読み聞かせをするとき
- 英語の動画を視聴しているとき
これらの場面で英語を使う際は、日本語をミックスしないように心がけます。英語が苦手なおうちの方にとっては、かなりハードな取り組みですが、バイリンガルをめざすと決意した場合は、やはり覚悟が必要でしょう。
それでは、続いて3~4歳児のバイリンガル子育てのコツを紹介します。
「読む・書く」を育てる育てる(3~4歳)
子どもが話せるようになり、文字に興味をもち始めたところで、チャートやカードを使いながらひらがなやカタカナを教えてあげます。
インターナショナル・プリスク―ルに通わせたいと考える場合は、家庭の外では英語オンリーの生活になるため、「いまのうちに」日本語の素地を養う必要があるのです。
あるいはバイリンガルをめざして、小学校からインターナショナル・スクールに通わせる場合は、学校での日本語学習がめっきり経ることでしょう。
日本の公立小学校に通えば、日本語と合わせて読解力や思考力などを形成できますが、インターナショナル・スクールの場合は日本語学習への意欲も下がってくる可能性があります。
家庭で本格的に英語教育、英語オンリーのシチュエーションを作ろうとする場合も、まずは日本語の「読む・書く」といった学習言語の習得をめざした方が、英語の習得や思考力の向上にも役立ちます。
読み聞かせ&読書力を育てる(5~6歳)
子どもがひらがなやカタカナを覚えると、やさしい絵本や本などを自分で読めるようになるでしょう。ただ、絵本を一人で読めるからといって、放っておかず、読み聞かせを続けてしてあげてください。
その理由は子どもに読む楽しさを味わわせるためです。文字になれない子どもは、「文字や文章を読む」といった過程でストレスを感じやすいものです。疲れてしまったりイヤになってしまったりするケースもあるでしょう。
その際、ママが「一緒に読もうね」といって、読み聞かせをします。子どもは自分が読んだ内容とは異なる感覚をもったり「え、そうだったの?」とストーリーの展開に驚いたりする可能性もあります。
ときには、子ども向けの本ではなく、大人が読みたい本を一緒に読んでみるのもいいでしょう。小説とは限らず、雑誌や情報誌でもかまいません。大人が思っている以上に、子どもの好奇心を刺激し、読書の幅を広げられるでしょう。
このように赤ちゃん時代からの言語環境づくりは重要です。子ども自身が「自分のルーツがわかり、自国の文化や考え方を理解する」あるいは「学習言語の習得で多様な文化や知識を吸収できる」ようになれば、未来を豊かにできるでしょう。
バイリンガル教育は、言語力のみを育てるのではなく豊かな人間性を育むためにある…といった視点も忘れずにおきたいですね。
まとめ
今回は、日本国内で子どもをバイリンガルに育てる方法について解説しました。バイリンガル子育てには3つの段階があり、まずは「聞く→話す」続いて「読む→書く」「多文化」の流れとなります。
また、バイリンガルに育てる秘訣として下記の4点を挙げました。
- 家庭と外の環境を整える
- アイデンティティを育てる
- 自信をもたせる
- 日本語と英語を区別する
国内で日本人家庭が子どもをバイリンガルに育てたい場合、100%英語オンリーにするのは不可能でしょう。覚えておきたいのは、日本語と英語のインプットをミックスせず、きちんと区別することです。
英語圏におけるバイリンガル子育てと同様に、日本国内でも日本語習得は、学習力や思考力の素地に重要な役割を果たします。日本語と英語を区別し、インプット量を増やす視点を忘れずにおきましょう。
「自分のルーツはここにある!」
こうしたアイデンティティを子どもが確立し、自信をもって生きていけるように、親としてどのようにサポートしたらよいか…。常に意識して、子どもが将来、グローバル社会で自分の個性を発揮しながら他者と協働的に生きられるようにしたいですね。
今回の記事が子どもをバイリンガルに育てたいと思うママさん、パパさんのお役に立てたらうれしいです。