幼児期は言語習得の能力が高い時期であり、その柔軟な脳は新しい情報を素早く取り入れるといわれます。英語教育においても幼児期を有効に活用することが大切です。
日本人が英語を習得する場合、2000時間以上の学習が必要であるとされ、多くの人が反復練習の重要性を認識しています。ただ、小さなお子さんを持つ親御さんの中には、「小さな子どもに繰り返し教えるのは本当に大変！」といった悩みを抱える人もいるでしょう。
そこで今回は、英語教育に熱心な親御さんに向けて、子どもの学習を楽しく続けていくための情報をお伝えします。英語教育の反復練習の価値や教育方法、注意点などについて詳しく解説します。ぜひ最後までお読みいただき、お子さんの英語学習をより良くサポートしていきましょう。
なぜ英語学習に反復練習が重要なの？
英語学習において、反復練習は非常に重要です。その理由は、人間の脳は学んだ情報を時間とともに徐々に忘れてしまうためです。これは、心理学者エビングハウスが示した忘却曲線によって証明されています。
また、短期記憶の容量や保持時間に関する研究によれば、短期記憶（一時的な記憶の保持）は限られた情報容量であり、その情報も時間が経つと忘れてしまいます。これを防ぐには、反復練習が重要です。適切なタイミングで情報を繰り返し復習するプロセスで、短期記憶から長期記憶への転換が促され、より永続的な記憶の保持が可能になるのです。
このような反復練習は、学習内容を確実に覚えるだけでなく、その後の学習においても良い影響を与えると考えられています。反復練習を通じて情報が長期記憶に定着することで、応用問題や新たな分野との関連付けが容易になります。つまり、忘却の防止が継続的に学習する効果を高め、総合的な理解力の向上につながるのです。
まとめると、反復練習は英語学習において学習内容の理解や長期的な記憶の定着を促進し、子どもの学習効果を最大限に引き出すための手段といえるでしょう。
参照元：
・ALL ABOUTできる人とできない人の復習の違いとは？
・専門家の先生による、英語教育に関する記事～英語学習に効果的な「意味がある反復」とは？【慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生】～
英語学習で反復練習を行うメリット
反復練習によってもたらされる効果は、記憶の定着だけではありません。ここでは、子どもの学力向上を促したり子どもの可能性を伸ばしたりする側面について、もう少し詳しく解説します。
効率的な覚え方の習得
反復練習を通じて、どのような学習方法やアプローチが効果的なのかを学ぶことができます。時間を有効に使い、情報を効率よく記憶する方法を習得できれば、学習効果が向上するでしょう。
反復学習は、学習効果を最大化するための手法です。英単語やフレーズなどを覚えた後、しっかりと定着させるためには、前章で紹介した忘却や記憶に関する理論を通じて、単調な「暗記作業」としてだけでなく、効果的な学習方法を取り入れるようにします。
たとえば英単語やフレーズを数回に分けて時期をずらしながら繰り返し復習することで、記憶の定着がしやすくなります。これを証明する研究がすでに発表されており、どのくらいの間隔で復習するのが良いのかを提示した研究として「ウォズニアックの間隔反復」が挙げられます。
こちらは英語の学習時のデータをもとに、復習のタイミングを表したものです。
- 1回目の復習：1～2日後
- 2回目：7日後
- 3回目：16日後
- 4回目：35日後
- 5回目：62日後
つまり、復習を行う際の最適な間隔として、1日後、1週間後、2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後のように繰り返してみると、記憶の定着がしっかりなされるといった理論です。
発達段階や個人に応じて違いはあると思いますが、参考にしつつ、子どもに合うベストなスケジュールを作ってみると良いでしょう。
参照元：
・東洋経済ONLINE｢忘れるのが早すぎる｣自分を変える簡単なコツ
・ダイヤモンドONLINE「頭がいい子」がやっている、たった1つの勉強のコツ
多様な視点の獲得
反復練習を行う際に、同じような学習内容やスキルに対して、さまざまなアプローチや視点がもてるようになります。単調な繰り返し作業だけでなく、情報を多面的に理解したり応用したりすることが可能になるのです。
英語の話とは少し離れますが、スポーツにおいても多様な視点の獲得は重要です。戦術や戦略、相手チームの動向などを考えながら練習しなければなりません。これを意識しながら練習を繰り返すことで、動作に対する理解を深め、臨機応変な判断力を養えます。
スポーツと同様に、英語学習においても多様なアプローチを通じて視点を広げる方法が有益です。一つの英単語を闇雲に繰り返し唱えるだけでなく、英単語を使ったフレーズを探したり、その単語と同じような（しかしニュアンスが異なる）単語を見つけたりすれば、知識をさらに深められるでしょう。
反復練習をする場合は、退屈に感じる場合もあるかもしれません。ただ、反復練習をチャンスと捉える姿勢も重要です。異なる角度から情報やスキルを提供するなどして、学習の質を向上させられます。
適応力の向上
英語学習においても、反復練習は適応力を向上させる重要な手段です。ここでは、反復練習がどのように「適応力」を向上させるのか説明します。
英語の習得は、単なる文法や単語の暗記だけでは限界があります。実際のコミュニケーションの中で言葉を使い、相手とのやり取りを通じて感覚や表情も使って学ぶ過程が重要です。活用場面を設定することで、本物のコミュニケーションに適応する能力を高められます。
実際に言語教育方法の一つとされている「コミュニカティブアプローチ※」も反復練習の際に活用したい理論といえるでしょう。こちらのアプローチは、語彙や文法だけでなく、実際の会話や文脈を重視し、学習者が実用的なコミュニケーションスキルを身につけることを重視しています。このアプローチは、体を使って学ぶスポーツの練習に通じるものがあると考えられます。
※なお、言語教育法にはそれぞれに一長一短があり、○○が最適とはなかなか言えないのが現状です。コミュニカティブアプローチも、ほかの教育法と組み合わせることで、効果を発揮できるいった考え方もあります。
スポーツ界での成功やプロのアスリートの強さは、変化する状況に適応し、ベストな策を選ぶ能力によって支えられています。同じように、英語を含む学習においても、新たな情報や状況が加わる際に、基礎となるスキルを活かしつつ適切なアクションを取る能力が大切です。
暗記するために唱えるといった考え方ではなく、単語やフレーズの表現をより良くしたり、活用したりする状況設定を通じて、問題解決や臨機応変さといった幅広い能力が向上すると考えられるのです。
参照元：
・スポーツ庁のWeb広報マガジンDEPORTARE「数字で見る！『6』歳までの幼児期における運動習慣が与える影響」
・理論スポーツ：パフォーマンスを伸ばす運動理論「「反復練習」を続けると、トレーニング効果が倍増する」
想像力と創造性の養成
英語の学習において、反復練習は単なる暗記だけでなく、異なる要素を組み合わせて学習することで、想像力や創造性の育成に効果を発揮するでしょう。
※インターリーブ（Interleaving）：学習や記憶のプロセスで、複数の関連するトピックやスキルを交互に組み合わせて学習するアプローチ
インターリーブを活用した手法は、幅広い分野で成果を上げています。音楽教育においては、スケール練習（音の組み合わせ）と音楽理論、ピアノ練習などの勉強を組み合わせることで、音楽の理解がより深まるそうです。同様に、スポーツにおいても、持久力と筋力のトレーニングを交互に行うことで、より高いパフォーマンスが生まれます。
英語学習においても、反復練習を通じて異なる要素を組み合わせると、創造性と想像力に刺激を与えるでしょう。たとえば、文法の学習とリスニング、会話の練習を交互に行えば、言語の多面的な理解が深まります。
つまり、単純作業を闇雲に練習させるのではなく、目的や意味をもたせながら、要素を組み合わせる練習法が必要なのです。そこから、新たなアイディアを考える力が育まれ、フレキシブルな表現方法が可能となります。
参照元：
ダイアモンドONLINE～反復学習よりも効果大！学習に変化を取りいれる「インターリーブ」のすごさ～
以上のように、反復練習を通じて実感するスキルや知識の向上は、子どもの継続的な成長を促すと考えられます。
子ども自身が自己成長を実感できれば、学習のモチベーションが高まり、新たな目標を設定して努力を重ねるようになるでしょう。
また、子どもが成長するのにともない、正しい自己評価にもとづいて、成長と課題を客観的に判断できるようになります。改善点を認識しながら、より効果的な反復練習の方法を考案するかもしれません。これにより、自己成長のスパイラルが生まれ、学習の質と深さが向上することでしょう。
効果的な英語反復練習の方法
以上の内容をもとに、効果をさらに上げるための英語の反復練習方法について解説します。とくに最初の「意味のある文脈で覚える」といったステップは、その後のステップに通じる重要なポイントです。しっかり確認して、「単なる繰り返し」に終わらない、理想の「英語反復練習」を実現させましょう。
意味のある文脈で覚える
英語学習における効果的な反復練習の方法は、意味のある文脈で覚えるアプローチです。これにより、単なる単語やフレーズを羅列しながら暗記するのではなく、実際のシチュエーションで使われることを理解し、言葉の意味や使い方を深く学べます。
このアプローチでは、たとえば、以下のステップで進めてみましょう。
- 意味のある表現を反復する
- 音声や視覚を活用する
- 反復と連想を繰り返す
- 品詞を組み合わせて学習する
- 理解を確認したり活用したりする
- 文法的な活用へ広げてみる
順に解説していきます。少々長くなりますが、たとえ話もいれて説明しますので、状況をイメージしながらお読みください。
「意味のある表現を反復する」とは、 英単語やフレーズを実際の場面や文脈で使用する表現の型を用意することです。実際の例文を活用する場合は、子どもにとって理解しやすく、日常生活での応用があるものが良いでしょう。
「音声や視覚を活用する」とは、単語やフレーズの音声を通じて発音を確認し、写真やイラストを使って視覚的に理解を助ける方法を指します。小さい子どもに英語を教える場合によく用いられるやり方です。
「反復と連想を繰り返す」場合は、まずは同じ表現の型を反復練習させることで、単語やフレーズが何を意味するかを理解させます。次に、単語やフレーズの意味や特徴を実際の生活で連想させてみましょう。単に親や先生から「これを繰り返し練習しなさい」と言われるより、子どもは自分事として受け止め、意味を理解しながら学習を進めることができます。
「品詞を組み合わせて学習する」のは、「意味のある表現を反復をする」と関わっていますが、より具体的に意識してもらうために提示しました。 たとえば、次の例を参考にしてみてください。
まずは、子どもが喜んで練習をしたがる早口言葉を提示します。
She sells seashells by the seashore,
The shells she sells are surely seashells.
So if she sells shells on the seashore,
I’m sure she sells seashore shells.
（直訳）
彼女は海岸で貝がらを売っている
彼女が売っている貝がらはまさしく貝がらだ
もし彼女が海岸で貝がらを売っているのなら
私は確かに思う、彼女は海岸の貝がらを売っているだろうと
直訳を見ておわかりのように、まったく意味不明な感じなのですが…。こちらは、sやshの発音などを意識しながら英語らしい発音法を身につけるために、よく使われる早口言葉です。
意味のある表現の型練習…とはならないと思われますよね。しかし、意味をもたせる要素はあります。たとえば「品詞を組み合わせて学習する」を取り入れると以下のようになるでしょう。
このように会話が成り立つとは限りませんが、一見、意味が無いように見える早口言葉であっても、教材として活用できる要素はたくさんあります。
さて、話を元に戻しましょう。
意味をもたせるアプローチの5番目、「理解を確認したり活用したりする」際は、学習した表現形式を使って行いましょう。たとえば、子どもに質問したり簡単な対話を行ったりしながら確かめます。
「文法的な活用へ広げてみる」 のは、子どもに行う反復練習法の最終段階ともいえます。最初は単純な表現から始め、少しずつ複雑な文法や意味の応用を学んでいきます。この活動を通じて、より自然な表現ができるようになり、小学校や中学校以降の文法学習に対応できる力を養います。
以上、紹介した方法は、単語やフレーズを単純に覚えるだけでなく、実際のコミュニケーションや表現に活用するための基礎を築く効果的な方法です。意味をもたせた文脈での反復は、学習意欲や学習内容の定着を高めることでしょう。子どもは効果的な反復学習を通じて、より自信を持って英語を使えるようになると考えられます。
インプットとアウトプットを組み合わせる
英語の反復練習を行う際は、単語やフレーズの暗記だけではなく、アウトプットやさまざまなスキルを組み合わせるアプローチが有効です。
英語学習は、単語やフレーズの暗記だけでなく「聞く」「話す」「読む」「書く」といった幅広いスキルをバランスよく組み合わせましょう。これによって、お子さんの英語能力がより総合的に向上します。
これらのアプローチは、お手本を見て繰り返すだけの学習方法とは異なります。子どもに自分で考えたり発言したりする機会を与えることで、英語を実際のコミュニケーションに役立てる力を養いましょう。また、読む力や書く力も適切なタイミングで組み入れていきます。
最終的には、子供の成長段階や好みに合わせて、楽しみながら英語学習を進めていくことが大切です。彼らが日常の中で英語を楽しんで使えるような学習環境を整え、自然な形で英語力を向上させるように努めましょう。
ゲームや歌を使って楽しく学ぶ
幼児期のお子さんに対して、英語学習を楽しみながら行う方法として、ゲームや歌を活用するアプローチが効果的です。幼い子どもは楽しい要素が入った学びのほうが馴染みやすく、ゲームや歌を通して学ぶことで学習のモチベーションを高めます。
繰り返しますが、幼児の学習において意味がある反復を行うことは大切です。表現を繰り返して練習する中で子どもの関心が高められ、学習がさらに進むことが示されています。
遊び心のある楽しいアプローチは、幼児に限ったことではありません。小学生や中学生、高校生にも有効です。意味がある反復は、単に単語や表現を繰り返すだけではなく、ゲームや歌を通じて楽しみながら学習することで、長期的な記憶の定着や言語スキルの向上につながります。
たとえ早口言葉や詩、ライムのような教材が、実際の活用場面を想定しにくい場合であっても、先ほど紹介したように「意味を持たせる教授」は可能です。
ゲームや歌を取り入れた学習アプローチは、幼児から高校生までの言語活動において、楽しさを効果を結びつける方法です。楽しみながら学び、意味ある反復を通じて、子どもの言語スキルを磨いていきましょう。
英語の反復練習を進める際のポイント
英語の反復練習を進める際は、以下の5点を念頭に置く必要があります。これまでミライコイングリッシュでも繰り返してお伝えしてきた内容です。
子どもの興味を尊重する
子どもの興味を大切にし、反復学習を楽しみに変えるように工夫しましょう。
たとえば、お気に入りのキャラクターが登場する歌やストーリーを使い、英語の表現を楽しく繰り返し学ぶ方法があります。子どもは、自分の好きなキャラクターと一緒に英語を使うことで、学習への興味を高め、自然な形で反復を行えるでしょう。
子どものペースに合わせる
子どもの理解と進捗に合わせて学習を進めることは重要なポイントです。
英語の学習は一人ひとり異なります。同じ表現を何度も繰り返し、子どもがしっかりと理解できるまでじっくりと取り組むことが大切です。
たとえば、新しいフレーズを覚える際に、子どもが少しずつ進めるように工夫します。この際、ほかの子どもと比べてはいけません。子どもの良さやペースを認めながら、学習の抵抗感を軽減し、自信をつけるようにしましょう。
子どもに負担をかけない
反復学習は、子どもに適切な負担をかけずに行いましょう。短い学習セッションを適宜挟み、楽しいアクティビティを通じて英語を学ぶ環境を提供します。
たとえば、歌を歌ったり、簡単なゲームを取り入れることで、楽しさを感じながら学び、英語に対するモチベーションも向上させられます。
間違えても叱らない
間違いは学習の一部です。子どもがミスや間違いをしても、優しく指摘して、その都度肯定的なフィードバックを与えましょう。
たとえば間違えた部分を一緒に正しく言い直したり、褒め言葉を使って励ましたりします。子どもが「間違ってもお母さんと一緒に直して、上手に言えた！」と自覚できれば、次の挑戦に意欲をつなげられます。
飽きさせない
楽しさは、新たな発見があるときに感じられます。反復学習を飽きさせないために、多様なアプローチを取り入れましょう。歌やゲーム、ストーリーを交えたり、楽しい手作りタイムを入れたりすることで、単調さを防ぎ、学習の楽しさをキープできます。
また、リスニングや発音、会話など、学習内容や方法をテンポよく組み替えたり、異なるアクティビティを取り入れたりして、子どもが「楽しさ」を新たに発見できるようにすることが大切です。
まとめ
幼児に英語を教える際には、反復練習が非常に重要です。今回は反復練習の意義やメリットを再確認するとともに、効果的な反復練習の視点やポイントを解説してきました。
反復練習を通じて、英単語や文法的要素が幼児の記憶に定着し、英語習得を促進します。無理なく楽しみながら、意味のある文脈で反復練習を行うことを心がけましょう。
また、暗記のみを重視するのではなくアウトプットを活用することで、英語スキルをさらに向上させられます。幼児の成長に合わせ、柔軟かつポジティブなアプローチで英語教育を進めていくことが大切です。
ときどき本記事を読み直して、現在行っている反復練習について振り返りながら、お子さんと楽しく英語学習を続けていきましょう。
