未来は予測困難な時代ともいわれます。AIやロボットなどに仕事を奪われないよう、子育てにおいて、自分で考え行動できることを意識しているママさんも多いことでしょう。
学校現場では、英語やプログラミングなども導入され、既存の教科学習に留まらない学びの場づくりが進んでいます。なかには、STEAM教育と呼ばれる教育アプローチを積極的に取り入れている学校もあることでしょう。
今回は、STEAM教育についてまだよくご存じではないママさんやパパさんに向けて、「STEAM教育とは何か?その重要性や現状、日本における課題」などについて解説します。また、家庭でできるサポート方法や子育ての視点についても紹介します。
本記事を通じて、未来に向けての子育てや教育について考えていきましょう。
STEAM教育とは何か
この章では、STEAM教育の概要や目的などについて解説します。子どもたちが未来を生きるにあたって必要とされる要素がよくわかりますので、ぜひご確認ください。
STEAM教育の概要
STEAM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5領域を統合的に結び、学習体験を豊かにする教育アプローチです。
では早速、各領域について紹介します。
科学(Science)
Scienceは、子どもたちが自然界の「不思議」を探求する学問といえます。STEAM教育において、子どもたちは身の回りの現象を観察し「なぜそれが起こるのか」を調べて理解します。科学は子どもの好奇心を刺激し、問題解決能力を育むのに役立ちます。
技術(Technology)
Technologyは、デジタルな世界やツールの使い方に関する学習が含まれます。コンピューターやタブレットなどを使って基本的なスキルを身につけたり、プログラミングやデジタルコンテンツを制作したりします。ツールを用いて効率的に問題を解決する方法を学びます。
工学(Engineering)
Engineeringは、ものづくりや設計に関する学びです。たとえば、設計図をもとにロボットや建物を作るなどして自分のアイデアを具体的な形にします。工学は、子どもたちのイメージを形にする学問であり、空間的な思考力も発達させると考えられます。
アート(Art)
Artは、創造性や表現力を養う要素として重視されています。子どもたちは、絵画や音楽、ダンスなどを通じて自分の思いやアイデアを表現します。アートは子どもの想像力を高めたり、課題に新しい視点を加えたりする役割を果たします。
数学(Mathematics)
Mathematicsは、論理的思考と問題解決力を発展させる学習です。子どもたちはSTEAM教育を通じて、数の概念やパターンを認識したり探求したりします。
STEAM教育は5つの要素を組み合わせて、さまざまな課題に対処する能力を育むアプローチです。体験的な学習を通じて、問題発見や課題解決力、論理的思考力、創造性、批判的思考など将来につながる能力の基盤を形成します。
続いて、STEAM教育とSTEM教育の違いについて紹介します。Artが取り入れられた背景について、もう少し詳しく解説します。
STEM教育との違い
STEM教育とSTEAM教育は、両方とも異なる学問領域を統合的に教えるアプローチですが、その大きな違いはArt(アート、芸術)が加わる点です。
ここで、Artが追加された理由について再確認しましょう。
2000年代初頭にSTEM教育(Science、Technology、Engineering、Mathematics)が提唱されました。その目的は、科学、技術、工学、数学の分野で子どもたちのスキルを向上させ、21世紀の職場で必要な能力を養成することでした。
STEM教育は問題解決や論理的思考力、プログラミングスキルなどいわゆる理系的な学習に焦点をあてたといえます。しかし、STEMのアプローチは、創造性や視覚的な要素、柔軟さなどが不足しているといった批判がありました。
そこで、STEM教育にArtの要素を統合しSTEAM教育が誕生します。このアイデアは「アートが創造性や視覚的な表現、デザイン思考を促進し、STEMの問題解決に新たな視点を与える」といった見方に基づいています。
STEAM教育において子どもたちは、科学的な知識やスキルに加えて、美術や音楽、デザインなどのアート分野を学びます。アートの要素が入ることで、より総合的に学習できるようになり、創造性や多様で柔軟な視点をもつ個人が育成されると期待されています。
海外で発祥したといわれるSTEAM教育ですが、日本における取り組みはどのようになっているのか、次の章で確かめましょう。
日本のSTEAM教育について
現代は急速な技術革新と社会の多様化が進み、新たな課題が次々と生まれている状況です。
文部科学省は、STEAM教育を推進する方針を示しており、予測不可能な時代にあっても対応できる人材を育成するために、STEAM教育の必要性を次のように述べています。
「AIやIoTなどの急速な技術の進展により社会が激しく変化し、多様な課題が生じている今日、文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、さまざまな情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成が求められています。」
~文科科学省ホームページ:STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進より~
文部科学省は、STEAMの要素を組み入れるためのガイドラインを各学校に提供したり、教職員の研修や教材開発などを支援したりしています。
学校教育の変化
学校教育における大きな変化の一つは、学習指導要領の改訂とそれにともなう新しい教育アプローチの導入です。日本では、学習指導要領が定期的に見直されています。学習指導要領とは、各教科や領域ごとの目標と内容を示したガイドラインであり、社会の変化に合わせて調整されます。
学習指導要領の改訂では、2002年4月より始まった総合的な学習の時間の導入が重要な変化として挙げられます。当初からSTEMあるいはSTEAM教育が特別意識されていたわけではありませんが、日本における課題(子どもの受動的な学習姿勢や知識偏重型の風潮など)を解決をするための学習アプローチとして注目されました。
さまざまなプロジェクトや課題に取り組むことで、実践的な能力や社会的スキルを向上させると現在でも期待されています(ただ、総合的な学習の時間については、その内容や評価の仕方、カリキュラム設定の側面で課題がある点は念頭においてください)。
学校教育は単なる知識伝達から、子どもたち一人ひとりの能力や価値観を育む場へと変化しています。将来を見通した実践的な問題解決力やコミュニケーション力などが重視され、子どもたちがより多様なスキルを習得できるように改革が進められています。
海外のSTEAM教育について
ここでは、海外におけるSTEAM教育について詳しく解説します。今回はアメリカとEU、アジア各国の取り組みを紹介します。
アメリカ
アメリカのSTEMおよびSTEAM教育に関する経過と現状について紹介します。
STEMおよびSTEAM教育はアメリカ政府によって支持された点に特徴があるといえるでしょう。2006年にはジョージ・W・ブッシュ大統領が一般教書演説のなかでSTEM教育に言及し、基金の増額やSTEM教育を受けた教員の増員を示しました。
バラク・オバマ大統領時代の2011年には10年間で10万人のSTEM分野教員の雇用をめざすと発表し、2013年には「STEM教育5ヵ年計画」が提示されました。
ドナルド・トランプ大統領時代においてもSTEM教育への支援は続けられ、学生がコンピュータサイエンスなどの質の高い教育を受けることを可能にする覚書に署名したり、学校を選べる自由を国民に与えたりするなど、独自の施策を打ち出しました。
アメリカではSTEMおよびSTEAM教育は継続的に重視されており、多くの学校や教育機関がプログラムを展開しているでしょう。ただし、教育格差やリソースの不均等性などの課題も存在し、今後も改善が求められています。
参考
谷麻里衣「アメリカにおける STEM 教育-次世代を担う STEM 人材の育成-」
「諸外国の政府におけるSTEM人材戦略の取組①」
経済産業省 第1回 「未来の教室」とEdTech研究会 中島委員提出資料「21世紀の教育・学習」
研究開発戦略センター「トランプ大統領がSTEMおよびコンピュータ・サイエンス教育の機会増進を図る大統領覚書に署名」
欧州
EU全体としてのSTEAM推進計画は、ヨーロッパ全域でSTEAM教育の促進を図るための枠組みを示しています。欧州連合(EU)は、科学、技術、工学、数学、アートの分野における教育とイノベーションを支援するために多くの取り組みを行っています。
2015年には、EU STEAM Coalitionが発足し、官民連携でEU加盟国のSTEM戦略構築を支援するプラットフォームが構築されました。また、学校における探求型授業や女子児童生徒が科学分野へ積極的に参加する取り組みを採用しています。
また、イギリスでは、経済成長のカギを握る人材育成として、科学を中心とした結びつきを意識しており、近年は技術やエンジニアリングとの連携も重視しています。実際の学校教育では、国家的なカリキュラムによらず、実際の活動としては、クラブやサマースクールなどインフォーマルな形での実施が主流といわれます。
参考
令和3年度 プロジェクト研究調査研究報告書「諸外国の先進的な科学教育に関する基礎的研究~科学的探究と STEM/STEAM を中心に~」
「諸外国の政府におけるSTEM人材戦略の取組➁」
EU STEM Coalitionホームページ
アジアについても確認してみましょう。
アジア
アジアにおけるSTEAM教育は、とくに中国、シンガポール、韓国の国々で顕著な発展を遂げています。
中国では、国家中長期教育改革・発展計画要領に基づくイノベーション人材育成に焦点を当てています。初等中等教育段階での改革試行プロジェクトや実験学校の設立などが行われ、イノベーション人材の育成を推進しています。
シンガポールでは、政府主導のサイエンスセンターが中心となり、次世代の理系人材を育成し、STEMプログラムを普及させる取り組みがおこなわれています。2004年には「能動的・自律的な学習のための方略」を導入しています。また、科学指導プログラム(SMP)を通じて子どもたちの興味を刺激し、科学研究に挑戦する機会を提供しています。
韓国のSTEAM教育は、第3次科学技術基本計画に基づく取り組みが特徴です。「創造・融合型人材の育成」を目指し、STEM教科書の開発や科学英才教育の強化などが行われています。また、STEM分野だけでなく、芸能などの幅広い分野においても英才を発掘し、育てるための教育体制を整えています。
各国は独自のアプローチを取りながらも、共通してSTEMおよびSTEAM教育の重要性を認識しており、その分野での成果を上げているといえるでしょう。
参考
「諸外国の政府におけるSTEM人材戦略の取組①③④」
日本においても、前述のように文部科学省も推進しているプロジェクトといえます。ただし、そこには、決して良いことばかりではなく、課題があるのも事実です。
日本のSTEAM教育の課題
海外のSTEAM教育の現状を把握したところで、日本のSTEAM教育の実態や課題について確認しましょう。
1人1台デバイスの活用が限られる
大規模なデジタルプロジェクトであるGIGAスクール構想は、STEAM教育の推進においても重要な役割を果たすと考えられます。ただし、子どもたちのデバイス利用が限られているのが現状です。
GIGAスクール構想の一環として、すべての児童・生徒に一人一台のデバイスが配布されつつあります。しかし、実際には家庭への持ち帰りが不可能であり、万が一紛失や破損などがあった場合、学校側がその対応をしなければなりません。
総合的な学習の時間でSTEAM教育の要素を取り入れるにも、屋外での活動に制限が加わるケースもあり、円滑な推進とはいかない点が課題といえるでしょう。
専門知識をもつ教員の不足
日本のSTEAM教育における重要な課題の一つは、専門知識をもつ教職員の不足です。
STEAM教育は科学、技術、工学、数学、アートなどの幅広い領域を統合的にカバーする教育アプローチであり、専門的な知識とスキルが必要です。しかし、多くの学校や教育機関では、STEAM教育を担当する教員に対する専門的な研修や教育プログラムが不足しています。
先生方自身がデジタルやICT機器を扱えても子どもたちに教えるとなると難しいケースも考えられます。
また、ICT教育に関する研修に参加した教員の割合や実際に指導可能な教員の割合などから、地域差が大きい点も課題の一つとして挙げられています。
参考
文部科学省「令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」
文部科学省「GIGAスクール構想の最新の状況について」
家庭や地域、学校などの教育格差
日本のSTEAM教育における重要な課題の一つは、家庭や地域、学校などの教育格差です。
教育格差とは、異なる地域や学校、家庭間で教育の質や機会がばらばらに分布している状態を指します。
まず、地域間の格差についてです。都市部やICTやSTEAM教育に先進的な地域では、リソースやプログラムが豊富に用意されており、子どもたちが幅広い学習機会を得られるようになっていますが、すべての地域が同じような取り組みができるとは限りません。
先進校や私立校とは異なり、そのほかの学校は資金や人材の不足が課題となっており、STEAM教育を提供できない場合もあります。
家庭の教育格差も問題です。STEAM教育に関心をもつ親が子どもに専門的な教育を施せる家庭と、そのような機会が限られる家庭との差が影響を与えています。
STEAM教育の認知度が低い
日本において、一般的にはSTEAM教育について知っている保護者様は比較的少ないのではないでしょうか。
Webメディア「STEAM JAPAN」を運営するBarbara Poolが、5~15歳のお子さんと同居する首都圏(東京・埼玉・神奈川・千葉)の男女7119人(25~69歳)に「あなたはSTEAM教育を知っていますか」と聞いたところ、認知している人の割合は26%でした。
認知者の内容は「知っていて子どもの教育に取り入れている(4%)」「知っているが実践はしていない(9%)」「聞いたことがあるが詳しくは知らない(13%)」となっています。
STEAM教育の普及には、学校や先生方、保護者、児童生徒などがそれぞれの立場でその目的や重要性を認識し実践していくことが必要です。しかし、アンケートで見られるように、広く理解されていない点が普及を妨げている要因といえるでしょう。
家庭教育でできること
STEAM教育がいかに価値のあるアプローチであるかわかっていても、社会や学校を取り巻く現状は意外に厳しいことがわかります。ただ、先ほどのアンケート調査で4%の方々が、すでにSTEAM教育を取り入れていると答えているのも事実です。
そこで、本章では「家庭でできるSTEAM教育」として、どのような取り組みが考えられるか解説していきます。
保護者の意識改革
STEAM教育を推進していくにあたっては、保護者の意識改革は重要なポイントです。保護者がSTEAM教育の概要や価値を理解し、前向きな姿勢で子どもたちをサポートすることは、学習態度や意欲に良い影響を与えるでしょう。
まずは、STEAM教育の概要や目的、内容などを正しく把握することが必要でしょう。今はWeb上でも国内外のSTEAM教育について詳しく解説された記事があります。
親御さんの前向きな姿勢が子育てにも良い影響を与え、お子さんに対するアプローチが少しずつ変化する可能性もあります。
STEAM教材の活用
家庭でのSTEAM教育を行う場合、STEAM教育に関係する教材やツールを活用する方法があります。たとえば、ベネッセが提供する「サンキュ!kosodate」STEAM JAPANの「実践!STEAM」などのコーナーでは、家庭で手軽にできるSTEAM教育を紹介しています。
また、STEAM教育の教材として、日本においてもさまざまなキットが販売されています。実験や科学に興味のあるお子さんには、科学者と同じメソッドを体験しながら学べる学習キット、アプリとワークブックなどで手軽に「おうちSTEAM教育」を体験できる教材などです。
プログラミングと英語の掛け合わせや、パズル、ロボットキットなど、お子さんの年齢や興味に合わせて選んでみましょう。
保護者様は子どもたちと一緒に考えたり、質問したり応えたり…などして温かくサポートします。失敗を受け入れながら、学習のプロセスを楽しむ姿勢も重要です。
外部リソースの利用
STEAM教育を知り、お子さんもその価値を理解したり楽しんだりできるよう、STEAM教育キャンプや各種イベントに参加することも貴重な体験の場となります。
たとえばSTEAMキャンプは、長期休みや休日におこなわれるプログラムです。興味に合わせて選べるイベントを開催している母体もあります。
「せっかくSTEAM教育を取り入れるのなら海外のキャンプに参加させよう!」と考える保護者様がいるかもしれませんね。7歳〜18歳を対象としたスタンフォード大学は、7歳〜18歳を対象としてサマーキャンプも提供しています。
イベントに「STEAM教育」といった肩書がなくてもOK!親御さんの認識で「これはSTEAM教育に活用できる!」と思ったイベントをセレクトすれば範囲は広がり、お子さんにさまざまな体験の場を提供できるかもしれません。
なお、世田谷区役所では「STEAM教育講座」を提供しており、長期休暇や各月ごと土曜日に多様なテーマに基づいたSTEAM教育体験の場を設けています。対象は5歳児から低学年、中学年以降、高学年から中学生までなどさまざまです。
外部リソースを活用するのは、イベント主催者や参加者たちとの交流を深めることにつながり、子どもたちが多様なモノの見方や考え方を養う良い機会となるでしょう。
読書や感想文(画)を取り入れる
最後は、読書や感想文(お子さんが小さいころは絵日記など)を取り入れるように努めましょう。
その理由は、読み書きの力を身につけるためです。また、体験させるだけで記録をとることをしなければ記憶に残りにくく、体験から学んだことを定着させられないでしょう。
学習は積み重ねです。短期記憶を長期記憶へとつなげるだけでなく、さまざまな経験や学びを通じて得た知識や数きるを「統合的につなげる」ことが重要です。何かを作っていたときに「そういえば、科学実験でやったアレが使えるかも」とアイデアが浮かぶ場合があります。
STEAM教育のArt的発想力を伸ばすとすれば、文章を書いたり読んだり、歌や絵、ダンスで表現したりすることも有効でしょう。知識をより深く定着させ、好奇心をさらに刺激するうえでも重要な要素が「読書&感想文」にあると考えられますが、いかがでしょうか。
親御さんやお子さんたちがポジティブな気持ちになれるのが、STEAM教育のメリットかもしれませんね。
それでは、本記事のまとめに入ります。
まとめ
STEAM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)に加えてアート(Art)を統合した総合的な教育アプローチです。STEM教育から発展し、創造性とデザイン性などを取り入れながら、より統合的な学びの場を提供するものといえます。
STEAM教育は世界的に取り入れられているアプローチ法であり、教育改革の一環として位置づけられていることがおわかりいただけたでしょう。
日本では、文部科学省がSTEAM教育を推進し、学習指導要領の改訂や総合的な学習の時間の導入などが行われました。しかし、ICT環境や専門知識を持つ教職員の不足、教育格差、認知度の低さなどの課題が存在します。
これらの課題を解決するには、なかなか難しく時間がかかることが予想されます。そこで、家庭でできることとして、保護者様の意識改革やSTEAM教材の活用、外部リソースの利用について紹介しました。
本記事によってSTEAM教育について理解を深めていただき、ご家庭でできるところからスタートしてみませんか?お子さんの可能性を開き、自信をもって未来を創っていけるようサポートしていきましょう。