ミライコイングリッシュの記事を読まれる方には、子どもの英語教育に関心が高いママさんが多いことでしょう。
ただ、子どもの英語教育に関しては懐疑的であったり、現状の教育方法に疑問をもったりする方がいるのも事実です。
このなかでも、「グローバル化が進む現代においては英語スキルが子どもの将来に欠かせない」と捉え、子どもの英語教育に熱心に取り組む親御さんがいるのも現状です。
今回は、子どもが英語を学ぶことの重要性を振り返りながら、実際の英語教育における状況や問題点を洗い出します。そのうえで、英語教育を行う場合の目的や視点についても解説します。
学校だけでなく、家庭で英語教育を行う必要性についてもお伝えしますので、今後、英語教育を進める際に役立ててみてください。
英語教育の重要性と保護者の関心
ここでは、英語教育がなぜ重要であるとされるのか確認するとともに、保護者の関心がどのようなところにあるのか紹介します。
子どもの将来に英語力は必要
ご存じのように近年、グローバル化が進み、世界中の人々がより頻繁に交流するようになりました。この流れのなかで、英語はますます重要になってきています。
その理由として、ここでは3つの要素にわけて解説します。
英語は世界共通言語
まず、英語は世界でもっとも多く話されている言語で、約14億5600万人(2023年)が話すとされています。英語を公用語、または準公用語に定めている国は54か国あります。
つまり、約80億に達した世界人口(2022年11月)の約5分の1、世界196か国(2023年)の約4分の1の人々が英語を話しているのです。
ビジネスにおいて英語は有効
英語はビジネスにおいても重要な言語です。多くの企業がグローバル展開を進めるなか、英語を話せる人材は企業にとって貴重な存在となります。英語を話せることで、国内だけでなく、世界中のさまざまな場所で働く機会を得られるでしょう。
PR TIMES(プレスリリース・ニュースリリース配信サービスのPR TIMES)によると、バイリンガルのための転職・求人情報サイト「Daijob.com」を展開するヒューマングローバルタレント株式会社がおこなった独自調査を公開しています。
この調査は、「Daijob.com」サイトの登録者の英語力及び企業からのスカウトデータをもとに、英語力が年収に与える影響について調べたものです。 その結果、英語力をもつビジネスパーソンの平均年収は、コロナ前よりコロナ後の方が約1.1倍高くなり、いずれの年代においても企業から高い年収でスカウトを受けていることがわかります。
とくに50代女性においては、コロナ後、日常会話レベルとビジネスレベルの平均年収差が約1.7倍(271万円)もの差があり、女性平均年収より約2.2倍(369万円)高くなったそうです。
PR TIMESの調査のように、英語と年収の相関関係については、ほかの調査(エンワールド・ジャパン株式会社「英語レベルと年収」実態調査)でも明らかにされており、「英語レベル上級では、年収1,000万円以上が約60%、初級では10%」という調査結果が出されています。
自分の視野が広がる
さらに英語を話せると、書籍や映画、音楽などを自由に楽しめて、日本語だけでは範囲の狭まる分野に触れる機会が増える点もメリットといえるでしょう。留学を通じて世界中の研究や学問を吸収することが可能になり、視野を広げるだけでなく思考力や表現力の向上も期待できます。
このように、英語を習得することは、子どもの将来において異文化理解や柔軟な対応力を向上させるとともに、ビジネスチャンスを広げるうえでメリットが大きいとされているのです。
保護者の英語教育への関心
保護者のなかでも、子どもの英語教育に対する関心がますます高まっています。それは、英語がもたらす可能性を知って、わが子にもよりよい人生を歩んでほしい親心の表れともいえます。
保護者の関心についても以下の要素にわけて解説します。
グローバル化への対応
また、グローバル化が進む現在、自国文化や社会の特性を大事にしつつ、さまざまな国の人々と違いを認め合ったり意見を共有しあったりして、より創造的な未来を築く取り組みが重要です。英語は、その取り組みを後押しする有効なツールと認識されています。
小学校の英語教科化
日本の教育界では長年、英語教育の推進については賛否両論が繰り返されてきましたが、2020年より小学校の高学年において英語が教科化されました。従来行われてきた外国語活動が中学年から始まるシステムに変わっています。
このような状況下では、保護者が英語教育に対する関心を高めざるをえません。次に紹介するように、習い事のひとつとして、スイミングや音楽、スポーツなどの習い事のほかに「英語」が上位に入っています。
習い事の上位に「英語」
学研総合教育研究所の幼児白書Web版(2019年8月調査)によると、就学前から習い事をする幼児は56.8%であり、2017年調査の37.9%から比べると20%近く増えています。習い事の1位は水泳で22.2%、英語が11.8%、体操教室が11.3%、音楽教室9.8%となっています。
ただ、水泳が前回調査よりもさらに増えているのに対し、英語はほとんど変わらない結果となっています。小さいころは、身体を動かす貴重な機会を与えたいとする親の気もちが伺えます。
小学生になっても、スイミング(25.7%)に通う子どもが多く、1位は変わりません(学研総合教育研究所小学生Web版2021年8月調査)。ただ、学習に関連する習い事やその割合も増えてくる傾向にあります。たとえば2位に「受験対策も含めた学習塾」(18.7%)が入っており、通信教育(15.3%)と英語(14.3%)がそれに続きます。プログラミングやロボット教室なども少しずつ増えているようです。
プログラミング学習については、英語と同様に小学校から導入が進んでいるため、教育に関心の高い保護者が子どもの興味を引き出すために、それを取り入れていると想定できます。
以上の調査結果からわかるのは、保護者の関心や考え方が子どもの習い事にも影響している点です。英会話教室に通わせる保護者は、英語教育の重要性を理解している方が多いと考えられます。
英語教育の実際と問題点
前章でお伝えしたように、子どもの英語教育に対する関心は高く、子どもが英語に触れる機会は以前よりも増えています。しかし、実際、英語教育に関してはさまざまな課題があります。
ここでは、次のような内容で英語教育の問題点について詳しく解説します。
- 子どもの英語力から見る問題点
- 教える側における問題点
- 日本語と英語の違いから生まれる課題
- 日本の英語教育の問題点
- 受験英語に関係する諸問題
本章を読むことで、問題点が明らかにされ、今後の方向性を探るうえで重要なポイントを得られるでしょう。少々長くなりますが、ぜひ通してご確認ください。
子どもの課題
子どもが英語を学ぶうえで直面する課題は多岐にわたります。
たとえばスピーキングやリスニング不足、カリキュラムの文法や読解が難しく苦手意識をもちやすい…といった課題です。
文部科学省の令和4年度(2022年)「英語教育の実施状況調査」によると、、中学生や高校生の英語力について、改善はみられるものの目標(英語レベルを取得した子どもの割合50%)に達していないのが現状です。
- 中学生:CEFR A1(英検3級レベル)49.2% 前年比2.2%上昇
- 高校生:CEFR A2(英検準2級レベル)48.7% 前年比2.6%上昇
- 高校生:CEFR B1(英検2級レベル)21.2% 新規調査
これらの課題を克服するためには、子どもに英語教育をおこなう場合の方法に工夫を加える必要があります。子どものリスニング力が大人以上であることを踏まえ、英語のリスニングの機会を与えると同時に、アウトプットできる場を可能な限り増やしていく取り組みが重要です。
教える側の課題
「英語を学ぶ子どもに課題がある」とする場合、英語を教える側に問題点があると捉える必要があるでしょう。ここでは、教員の英語力や教え方、地域に違いがある点について解説します。
教員の英語力が問われている
文部科学省が実施した令和4年度英語教育実施状況調査によると、CEFR B2(英検準1級)相当以上を取得している英語担当教師は、中学校で増加傾向にあり、全体の41.6%、高校では72.3%となっています(なお、目標値は中学校で50%以上、高校で75%以上です)。
また、授業を英語で行っている(発話の半分以上)英語担当教師は、中学校では74.4%、高校では46.1%にとどまっているそうです。ただし、英語科や国際コミュニケーション科などの学科では81.1%と高い数値を示しています。
ALTが有効に活用されていない
ALT(外国語指導助手)が有効に活用されていない点も課題となっています。同じように「英語教育実施状況調査」によると、ほぼ全ての学校においてALTが授業に参画していますが、参画した授業時数の割合は校種が上がるにつれて減っています。
また、授業のなかで教師とコラボレーションを図りながら、発音を指導したり子どもとの会話、フィードバックなどで活用されている例が多いのですが、授業以外の場で関わる場面が少ないことが浮き彫りになっています。
英語力に地域差がある
文部科学省の同調査では、地域別に学校にまつわる英語力についても提示されています。
中学生でCEFR A1レベル相当以上を取得している(あるいはA1以上の実力を有していると思われる)生徒の割合が高い地域は、福井県(86.4%)とさいたま市(86.6%)で、他県や地域に比べると突出しています。
続いて横浜市の86.0%、東京都の59.6%となっています。一方30%台の地域は全国で12県・政令市です。
読者のママさんのなかには「どうして福井県とさいたま市は子どもの英語力が高いの?」と疑問に思われることでしょう。そのヒントとして産経新聞THE SANKEI NEWSサイトの「中学生英語力、さいたま市と福井県が突出のワケ」の記事が参考になります。
内容をまとめると以下のようになります。
- 子どもが英語を話す機会をつくる(さいたま市)
- 教師の英語力を高める(福井県)
つまり、さいたま市と福井県とは異なるアプローチの仕方で子どもの英語力を高めていると考えられるのです。
さいたま市では市内の公立小中学校で、9年間一貫した英語カリキュラム「グローバル・スタディ」を実施しています。このカリキュラムは平成28年に導入され、小1〜6の全学年がクラス担任とALTらの複数担任制を敷き、「生きた英語」に接する機会を設定している点が特徴です。小学校5、6年と中学校、高校ともに「授業の半分以上の時間で児童が英語を話す」実施率が100%となっています。
福井県は教師の英語力が全国トップです。準1級の取得割合は、中学校で65.3%、高校で95.4%と高い割合を誇っています。福井県では、英語教師の英検などの取得率や中高における授業での英語使用率の目標を設定して改善を進めてきました、さらに、英語教師を対象にした研修も熱心におこない、授業の充実を図ってきたといわれています。
産経新聞のサイト記事で、東京外国語大の投野由紀夫教授は「さいたま市、福井県とも自治体や教育委員会が英語教育の重要性を認識し、地域の特性を踏まえた取り組みを進めている」と指摘しています。そのうえで、「小中学校の初歩段階の、レベルを考慮した英語を使った指導にこそ、個々の教員の英語力の高さが物を言うことがある」と教員の英語力底上げを課題に挙げています(参照元:産経新聞THE SANKEI NEWSサイトの「中学生英語力、さいたま市と福井県が突出のワケ」)。
日本語と英語の違い
日本の言語環境や文化的背景による特性は、英語教育において影響を及ぼしています。
ここから、英語の習得を難しく感じてしまう背景について解説します。
日本語と英語の発音の違い
日本語と英語の発音は大きく異なり、日本人が英語の習得において高いハードルとなっています。特に、音の聞き分けは幼少期に優れているとされ、近年では赤ちゃんのころから英語の音に慣れさせる取り組みが増えています。英語の歌や絵本の読み聞かせも一般的におこなわれています。
ただし、日本語が主流の言語環境では、日本語の音に慣れることのほうが自然であり、英語の音の特徴を聞き分けるタイミングを逃してしまうことがあります。
日本語と英語の文構造の違い
文の構造についても日本語と英語はまったく異なります。英語では主語+動詞(S+V)の順番で文章が構成されることが多いのに対し、日本語では主語に近いところではなく、文の終わりに動詞(述語)を知って初めて「結果」がわかる構造です。
また、前置詞についても差があります。例えば、日本語の「弟と一緒に」は英語では「with my brother」となり、前置詞の後に名詞が設定される仕組みとなっています。さらに、動詞の活用形や現在・過去分詞など微妙なニュアンスを表現するためには、細かな文法を覚える必要があります。
日本語に訳してから理解しようとする
日本人が英語を理解する際には、英語から日本語に訳してから理解しようとする傾向があります。しかし、この方法はある意味非効率であり、リアルタイムにネイティブとのコミュニケーションを取る場面では十分な理解が難しいことがあります。
一旦日本語に訳して英語を理解する場合、読み書きの場面では比較的正確に扱えるようになるかもしれません。ただ、実際のコミュニケーションでは英語を”英語で”理解する能力が必要です。相手の話す内容を理解できなかったり、自分の考えをわかりやすく伝えられなかったりすることがあります。このため、直接英語で理解するスキルを養うことが重要です。
日本の英語教育の課題
日本の英語教育にはいくつかの課題があります。これらの課題は、読み書き中心の教育法が主流である点とテストによる減点制度などが背景にあると考えられます。
読み書き中心からリスニングやスピーキングの要素を多分に取り入れた授業改革が進んでいますが、日本の英語教育の現状から、以下のような問題点が生じやすいといえます。
- アウトプットへの恐れ
- アウトプット不足
- 4技能のバランスがとれない
- 実践的に英語を使えない
英語学習においては、失敗を恐れたり、正確さを重視するあまり、自由なアウトプットが難しい状況が見られます。結果として、実践的なコミュニケーション能力が十分に発達しない場合があります。
日本の英語教育は、改善が見られるとはいえ、英単語や文法の理解に偏りがちであることが問題点として指摘されます。4技能の「聞く」「話す」「読む」「書く」のバランスがなかなかとれないのが現状です。
さらに、テスト重視の教育や文法中心の授業が、実践的な英語スキルの育成を妨げる要因となっています。英語を実際のコミュニケーションに活かす力が不足しているため、「英語を使うことに躊躇してしまう」状況を生み出しているといえるでしょう。
これらの課題を克服するためには、実践的なアウトプットの機会を増やす必要があります。また、4技能のバランスを意識しながら、自由に対話できる場面づくりを継続して図っていくことが大切です。
さらに、英語圏のネイティブスピーカーとの交流機会を増やし、リアルな英語に触れる機会を提供します。オンラインのプラットフォームや国際交流イベントなどを活用することも有効でしょう。
受験英語との関係
先ほどまでの英語教育の問題点として、子どもの立場、教師、そして学校教育を中心とした教育法を視点に解説してきました。それらと関連して、日本人の「使える英語」の習得を阻む要因の一つに受験英語が挙げられます。
受験を目的とした英語教育は、コミュニケーション能力の向上につながりにくい側面をもっています。一方で、受験を控えた子どもをもつ保護者にとっては避けられないのが現状です。
いくら「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく身につけることが大切とされていても、やはり現在の高校や大学入試の内容は読み書きが中心です。受験といった壁を突破するには、どうしても長文読解や英作文などの読み書き中心の学習になるのが通例でしょう。
また、純粋に英文の読み方を習得するといったものではなく、英語の問題をどう攻略するのか、つまり試験のテクニックを学ぶ一面もあり、英語を学ぶ意義から遠のいてしまいます。
子どもや保護者が「世界で活躍できるように」「自由に自分の考えを表現できるように」など、英語を通じてコミュニケーションの楽しさを味わえることを目的としていても、いつしか「受験で勝つための英語攻略法」を求める流れに乗せられてしまう場合もあります。
今の日本では、将来をよりよく生きるためには学校や大学の選択も重要な要素となっています。そのため、求める教育を受けるために試験で合格を目指すのは致し方ないことです。しかし「どのような未来像を描くのか…」と、常に目的を意識しながら英語を学ぶ姿勢は保ちたいものです。
英語教育の重要な視点と目的
さて、前章で現在の英語教育を取り巻く問題点について詳しく解説してきました。本章では、課題を解決するために必要な視点や英語教育の目的について確認していきます。
グローバル化と英語の役割
グローバル化が加速する現代において、英語はますます重要な役割を果たすといえます。国際的な交流や仕事の場では、英語はコミュニケーションの重要なツールとなります。
言葉は人と人をつなぐ大切なツールです。日本語以外にもう一つの言語、しかも世界中のどこへいっても通じやすい英語を学ぶことは、人間どうしの交流を促進し、人生をより豊かにするものと考えられます。
さらにコミュニケーションツールとして英語を活用すると捉えれば、英語の習得段階でより実践的な学びの場をつくる必要性が高まるといえます。
英語教育の目的を明確にする重要性
英語教育において、明確な目的をもつことは非常に重要です。ただ英語を学ぶだけではモチベーションも高まらないでしょう。
これは、英語を習得するときだけにつながる話ではありません。どのような習い事でも一つの目標をしっかりもつかどうかで、その習得度も変わってきます。具体的な目標や意図をもつことで、学習計画も立てやすくなるでしょう。
何のために何をやるべきか考え、何を優先にして学びを計画するのか、このプロセスが具体的であればあるほど、実際に行動に移せる確率を高め、学習の効果を実感できます。実際に成果を上げている自治体や学校では、この目標設定がより具体的であると考えられます。
また、目的がはっきりしていたほうが、学習のモチベーションが向上し、意欲の持続も可能になります。
世界の英語教育の現状と比較
世界各国の英語教育の現状を知ることで、日本の問題点や足りない要素が明確になります。課題が見えてくれば、英語の教育方法に活かせる視点を得られるでしょう。
ほかの国々では、日本とは異なる英語教育の取り組みや英語力の水準を上げる様子がわかります。たとえば、次の4ヶ国を例に紹介します。
オランダ
世界最大の英語能力指数ランキングは111の国、地域から210万人が参加した歴代最多のデータ集計です。これによると、オランダは第1位にランクされています(なお日本は80位です)。
オランダでは、小学校5歳から英語教育が始まり、12歳までにCEFRのA1‐A2レベルの英語を身につけることが目標です。教員は英語を含む小学校教員資格を持ち、英語力の高い教員が指導にあたります。
楽しさと興味を引く要素が取り入れられた授業を行い、英文法よりも英語の理解と話す力を重視しています。カリキュラムは学校によって自由に選択され、教材はカラフルでイラスト豊かなものが使われ、インタラクティブなホワイトボードを活用した授業が行われています。
参照元:FUJITSUサイト「非英語圏でNo.1!高い英語力を誇るオランダの「小学校英語教育」事情
フィンランド
(世界英語能力指数ランキング8位)
フィンランドでは小学校3年生から外国語学習が始まり、英語専任教員の育成が重視されています。CLIL(Content and Language Integrated Learningの略で、他の教科と英語を統合した学習方法)が導入されています。
教育改革により、すべての子どもたちの可能性を最大限引き出す教育が目指されています。関係者が協力し、現場の声を大切にしながら問題解決を進める体制が整備されているのです。
また、興味のある方のために、フィンランドと日本の教育事情を比較してみます。
国語の割合(%) | 外国語の割合(%) | 9‐11歳児の必修授業時間に占める外国語授業時間の割合 | |
フィンランド | 13% | 14% | 9% |
日本 | 11% | 10% | 1% |
参照元:上智大学 中村啓子講師「日本とフィンランドにおける英語教育の比較」日本とフィンランドにおける英語教育の現状より筆者作成
フィンランドでは初等教育6年間と中等教育前期3年間の計9年間で最低2ヶ国語を学ぶ制度があり、初等教育の終了時の到達目標は「身近なテーマに関する簡単な会話を理解」することです。ちなみに前期中等教育の終了時の到達目標は「日常会話を理解し、テレビ・映画などの要点を理解」することが提示されています。
参照元:上智大学 中村啓子講師「日本とフィンランドにおける英語教育の比較」
韓国
(世界英語能力指数ランキング36位)
韓国の英語教育については、教育課程において「使える英語、実用的な英語の習得」を目的とする旨が明文化されています。1997年から英語学習の開始学年が小学校3年生となり、必修教科に位置付けられます。
実は習得すべき語彙数は、韓国が3000語(小学校から高校)であるのに対し、日本では2022年時点で5000語(小学校から高校)となっています。韓国が少ないというよりも、英語改革の実施時期が早いこと、あるいは実用英語にフォーカスした指導の徹底ぶりが、英語能力指数の向上につながっているといえるでしょう。
参照元:Weblio学校向けオンライン英会話サイトより「韓国人の英語力が高い理由は早期英語教育にある」
中国
(世界英語能力指数ランキング62位)
2001年から小学校に英語教育を義務化した中国(1978年に外国語教育の一環として英語教育を導入)。中国では、小学校5年生以上の子どもは週2回以上の40分授業を受けています。
中国では、長年以下のような教育目標にもとづいて指導してきました。
- 基本的な発音と文法の習得
- 2800(小学校から)または2200(中学校から)の単語と慣用句を習得
- 辞書を使って中難度の文章を読解
- 一定程度の「聞く」「話す」「書く」「翻訳する」能力を養う
上記の内容は、日本の英語教育に通じるものがあります。中国では日本以上に地域差が激しいと思われますが、英語教育施策としては、日本よりも先を行っているといえるでしょう。
参照元:東洋経済オンライン「日本と中国「英語を学ぶ環境」の決定的な差」
今後の展望と効果的な取り組み
英語教育の今後の展望について、効果的な取り組みはいったいどのようなものでしょうか。
たとえば、対話や交流を取り入れた実践的な学習手法の導入、教員の専門的な教科指導力の育成、英語の活用機会の増加などが有効なアプローチといえます。
日本が島国で外国人の割合がそれほど多くない現状で、とくに地方においては活用の機会が狭まります。実用的なコミュニケーションをおこなうにもなかなか難しいのです。
子どもが英語力を習得するためは、ある程度割り切り、受験に必要な読み書きと会話力との均衡をめざす必要があるでしょう。
次章では、子どもの英語力をバランスよく育むための視点を解説します。学校教育にすべてを任せるのではなく、家庭でも英語教育をおこなう視点です。
家庭での英語教育は重要
これまで挙げたさまざまな子どもの英語環境を取り巻く課題を解決するためには、学校や塾などで教わる英語教育環境だけでなく、家庭で効果の上がる教育法を実践していく必要があります。
ここでは、ミライコイングリッシュの読者である、乳幼児あるいは小学校低学年のお子さんをもつママさんに向けて、家庭でできる英語教育に関する視点や方法を解説していきます。
まずは、小学校からの英語教育の実態と問題点を洗い出し、自宅でおこなう英語教育にどのような要素を取り入れるべきか確認しましょう。
小学校からの英語教育の実態と課題
小学校からの英語教育は、日本の教育改革の一環として注目を集めています。しかし、実際の実施状況や課題はどのようなものかを考える際に、まずは2020年度に改革された内容を整理してみます。
- 新学習指導要領の試行
- 大学入試改革
- 英語改革
新学習指導要領では、学校での学びを人生や社会にいかそうとする力、つまり「学びに向かう力」「人間性」、さらに実際に活用できる「知識及び技能」、予測不可能な時代に必要とされる「思考力」「判断力」「表現力」などの力をバランスよく育成することが目標とされています。
大学入試改革では、前述の力を大学入試で評価できるよう、大学入試共通テストの導入や記述式問題、外部機関による英語試験導入などが検討されました。
英語改革では、小学校中学年で外国語活動(週1)、高学年で教科としての英語(週2)が始まりました。
※なお今まで英語で行われるのが望ましいとされてきた中学校英語についても、英語で授業を行うことが基本とされています。高校の英語では、ディベートやプレゼンテーションなど英語で自分の意見を話す活動を導入するなど、アウトプットを意識した内容が含まれています。
福井県やさいたま市のように効果のある取り組みをする自治体が存在するのは事実です。しかし、公平さを重視する公教育では、英語教育の方法や内容、レベルなどが限定的なものにならざるをえないといえるでしょう。
また、週1回(中学年年間35授業時間)や週2回(高学年年間70授業時間)だけでは、英語の習得に必要な時間をクリアするのは難しいと考えられます。
4技能の習得を家庭で補う
小学校での英語教育は、主にリスニングとスピーキングの習得に重点が置かれています。しかし、4技能(聞く・話す・読む・書く)をバランスよく習得するためには、家庭での補完的な取り組みが重要です。
実際に中学年では、聞く、話すといった技能習得が重視され、文字については、アルファベットに親しむ段階と捉えられます。高学年では書く要素も入りますが、何度もお伝えしたように、学校の授業数だけでこれら4技能を習得するのは簡単ではないでしょう。
子どもによってはネイティブと接することに抵抗感をもつ子もいます。また、授業のなかで30人以上とコミュニケーションを取るのは難しいでしょう。内容や時間的にも豊かな経験を積むことは意外に難しいのです。
実際に語学の習得には2000時間〜3000時間かかるとされ、英語教育が小学校から始まるようになったとしても、学校の学習時間は、クリアできても半分程度といわれます。
こうした背景もあり、学校以外に英語学習の時間をつくるのは、子どもに英語に慣れさせると同時に効果的な成果を得やすい取り組みと考えられます。
家庭で取り組む際のポイントとアイデア
家庭での英語教育を成功させるために、ここまでお伝えしたような現状や問題点を少しでも改善する取り組みについて解説していきます。学校と家庭での学習を連動させ、バランスよく子どもの学力を形成する視点から話を進めます。
- 楽しさと興味を持たせる環境づくり
- 子どもと一緒に親自身も学ぶ
- バラエティ豊かな学習の機会をつくる
- 学校の授業を補完する
- 学習の質を高めるためのIT活用
- 減点方式を使わずポジティブなアプローチ
- アウトプットの機会を創り出す
- 目標設定と振り返りをおこなう
いきなり、すべてを取り入れるのは難しいかもしれません。やりやすいものを数個選んで少しずつ実践していきましょう。焦ることなく、地道な取り組みを重視し、大人も子どもも慣れていくことが大切です。
楽しさと興味を持たせる環境づくり
子どもが英語を楽しむために、英語圏の文化を取り入れた絵本やアニメ、映画を家庭で楽しむようにしましょう。子どもの興味に合わせたコンテンツを選び、家族で一緒に英語を楽しむ時間をつくることが大切です。
子どもと一緒に親自身も学ぶ
親自身が英語を学ぶ姿勢を示すことは重要です。子どもが英語を話す機会を与えると同時に、親自身も英語力を鍛える姿勢をもちましょう。これは、前述で紹介した「さいたま市と福井県」の子どもの英語力が高い背景とつながる視点です。
つまり、子どもの英語への関心や学習意欲を高めながら、失敗を恐れず自由に英語をアウトプットできる機会を増やしていくのです。さらに、家族で英語でコミュニケーションを取る環境を作り、実践することで、子どもが自然に英語に触れる機会が増えます。
バラエティ豊かな学習の機会をつくる
家庭内での英語学習だけでなく、地域の英語イベントやコミュニティに参加することで、英語を使う機会を増やしましょう。また、オンライン英会話や国際交流イベントを活用して、英語を話す相手を見つけることも豊富な学習機会を創り出します。
学校の授業を補完する
学校の英語教育が時間的に限られている場合、家庭で学習を補完しましょう。週末や放課後に、家族で英語学習の時間を設定するのは、学校のカリキュラムを補強する役割を果たします。
学習の質を高めるためのIT活用
オンラインの英語学習やアプリを活用して、個人に合う学習コースを進める方法も有効です。また、英語学習のゲームアプリや教育ソフトウェアを通じて、楽しく学ぶ環境を提供できます。
減点方式を使わずポジティブなアプローチ
英語の学習は成功体験とポジティブなアプローチが大切です。子供の取り組みを否定的に評価するのではなく、成果を褒めることでモチベーションを高めましょう。減点方式に囚われず、プラスの要素を認めつつ楽しく学べるようにサポートする姿勢が大切です。
アウトプットの機会を創り出す
学習した知識を実際に使う機会を設け、英語の実用性を子どもに自覚させる取り組みも有効です。家族や友人と英語でコミュニケーションを取る機会を増やし、英語を使ってアウトプットする機会を積極的に設定しましょう。
目標設定と振り返りをおこなう
定期的に子どもと一緒に学習の目標を立て、達成度を振り返ってみましょう。学習の進捗を把握し、モチベーションを維持します。目標を達成した場合は、しっかりとその成果を認め褒めるようにします。ポジティブな声かけや支援は、子どもの自信へとつながり、次のステップに進む意欲を育てられるでしょう。
家庭での英語教育は、学校の教育を補完する重要な役割を果たします。英語学習において学校の役割を否定するのではなく、家庭と学校が連携し、子どもの学習に対するサポートを継続的におこないましょう。学校の教育を補完することで、子どもがより自然なコミュニケーション能力を身につけ、楽しみながら英語を習得することが可能になります。
まとめ
英語教育の問題点と重要性、保護者の関心、実際の実施状況、そして家庭での取り組みについて解説しました。
英語力を磨くためには、明確な目標設定は重要です。グローバル化や英語の教科化といった社会の流れに乗るといった発想ではなく、子どもの特性をさらに伸ばし能力を活かす機会を増やすために「英語をどう活用するのか」…その立場で目標を設定したほうが良いでしょう。
今回の記事で紹介した課題を知ることで、家庭での英語教育に取り組む際の視点も少しずつ見えてきたのではないでしょうか。子どもの英語活用シーンやインプットとアウトプットのバランスを意識し、実践的な学びの場をつくっていきましょう。子どもの可能性が広がり、未来を生き抜く素地も少しずつ養われます。
今回の記事が、英語教育を進めるうえでお役に立てたらうれしいです。